看護支援

看護教育の支援技術

 従来の看護教育における座学・シミュレーション教育・実習といった各段階を,ロボット技術や情報技術などの工学的なアプローチで補間・補強することで,実務の実態に近い体験を提供し,効果的な教育や評価を支援することを目指しています.複数の大学,病院,企業との共同研究です.

手技に対する生体反応を呈する模型シミュレータ(ESTE-SIM)

ESTE-SIM

気管内におけるカテーテルの先端位置や接触力を計測できるセンサ機能をもった気管模型(ESTE-SD)と,プロジェクションマッピングによってマネキンの顔色や表情を動的に変化させる情報提示の統合により,従来にないインタラクティブな模型シミュレータが開発されました.Endotracheal Suctioning Training Environment Simulator(ESTE-SIM,エステ-シム)と呼んでいます.

気管模型の形状は,CTデータの分析に基づいて標準的な3サイズが設定されています.

気管模型の素材による体感の評価

気管内におけるカテーテルの先端位置や接触力を計測できるセンサ機能をもった気管模型(ESTE-SD)の素材によって,計測性能にどの程度の差異があるか,ユーザの体感的な差異が生じるか,といった影響が定量的に評価されました.ESTE-SDの計測機能に加えて,独自開発の指腹用6軸力センサが用いられました.数種類の素材で作成された気管模型におけるカテーテル挿入中の力の計測/分析により,素材の適合性やユーザの体感レベルが明らかになりました.

ESTE-SIM+経管栄養訓練機能

人工呼吸器の装着が長期化する場合には経管栄養も必要となり,気管切開下で考慮するべきリスクを踏まえた訓練が求められます.ESTE-SIMに投与速度の計測機能を追加することで,標準的な経管栄養セットを用いながら,長時間を要さない経管栄養の訓練を可能としました.

ESTE-SIM+人工呼吸器シミュレータSimmar

ESTE-SIMに,タブレットアプリとして実装された人工呼吸器シミュレータSimmarを統合することで,人工呼吸器操作も含めた気管内吸引のインタラクティブなシミュレーションを低コストに可能としました.ESTE-SIMのセンサ情報とSimmarの生体反応情報とを共有して関連付けることで,手技・操作に対して両システムの挙動が変化します.

模範手技を追体験できるVRシミュレータ(ESTE-VR)

ESTE-VR

熟練看護師の手技中の全身動作と視線を記録して,3DCG空間のアバタでそれを再現するとともに,Virtual Reality(VR)デバイスを用いてユーザが同一空間に没入し,アバタにユーザ自身の身体を重ねるように(二人羽織りのように)して模範手技の動きを一人称視点で追体験できるシステムを開発しました.身体の向きや手の動作速度,どのタイミングでどこを見るかなどが直感的に分かるとともに,模範手技とユーザ自身の動きの差異に気づきやすい,従来にない学習体験を提供します.

ESTE-VR+手首力覚フィードバック

ESTE-VRユーザの手首に対する力覚提示デバイスを併用することで,気管内吸引において模範手技とユーザ動作との差異が大きい場合に,模範手技へ近づけるように力覚をフィードバックすることで,手取り足取り指導を受けているかのような学習体験を実現しました.スピーディかつ小刻みなカテーテル操作においては顕著な介入が見られます.

三次元的な注視点の可視化(空間的視点ヒートマップ)

ESTE-VRのユーザの視線の時間履歴をVR空間に点群表示することで,その密度分布からどこを重点的に見ていたかを把握しやすくすることを可能としました.これは,従来の平面的な画像において注視点分布を可視化するヒートマップの拡張として,空間的な注視点分布の可視化を可能とするものです.

手技に対する生体反応を呈するARシミュレータ(ESTE-Holo)

ESTE-SIMのハードウェアの大部分を削減して(センサ機能をもった気管模型のみ専用に新規開発して),Augmented Reality(AR)映像に置き換え,ARグラスを装着することでESTE-SIMと同様の体験を可能としました.システム全体がコンパクトになり,大部分がCGのためシナリオ(患者の年齢や性別など)の変更自由度も向上しました.吸引器やカテーテルのような直接操作する物品は実物の併用が可能です.

模範手技の3Dアニメーションを自由自在に視聴できるモバイルアプリ(ESTE-mobile)

教科書的な知見や経験者の助言に基づいて作成された模範手技の3DCGアニメーションを携帯端末で視聴できるアプリケーションにしました.視聴に必要なタップ操作がログに保存されることで,学習者がよく見ようとした部分や見逃している点を事後に再現可能で,習熟度の評価などに資する機能があります.つまり,教育ツールとしてだけでなく,評価・分析ツールとしても活用しうる機能を備えています.

看護の自動化技術

 気管内吸引を一部自動化することで,看護ケア提供者の負担を軽減するとともに休息時間を増やし,安全で持続可能な看護を目指しています.他の大学との共同研究です.

看護の自動化技術の開発

看護(特に気管内吸引)を部分的に自動化するシステム

バイタルサインの監視,寝返り支援ベッドの駆動,吸引器のON/OFF,カテーテルの挿抜などが自動化され,ベッドサイドのコンピュータで統合管理された自動化システムを開発しています.模擬患者である等身大患者模型の胸腔内は,気管模型に模擬痰を投入したりカメラで観察したりでき,同システムの評価試験が可能です.

吸引カテーテル自動挿抜機構

気管内吸引の自動化にあたり,気管切開部付近だけでなく用手吸引と同等の吸引エリアを担うことを目指すとともに,人工呼吸器との併用を念頭に標準的な閉鎖式カテーテルの挿抜を可能とする機構を開発しました.スリーブを備える閉鎖式カテーテルでも挿抜できるように,ロータによる連続的な送りではなく,開閉・上下動するクランプによる間欠的な送りと開放を実現しています.

自動体位変換による体位ドレナージ

体位変換によって痰の排出を補助する(例:気管の奥にある痰をカテーテルで吸引しやすい場所に移動する)方法を体位ドレナージと言います.自動看護システムの自動体位変換によって,体位ドレナージがどのように進行するか検証しました.気管内に近い環境を維持する恒温湿槽を作成し,その中で気管模型上の模擬痰の動きを撮影,分析し,体位変換の角度や時間と痰の移動量を調査しました.

機械学習を用いた自動聴診技術の開発

機械学習を用いたエッジデバイスによる即時自動聴診

呼吸音が正常か,あるいは痰が絡み気味で吸引が必要そうかを,機械学習を用いて自動判別する聴診システムを,エッジデバイス(マイコン)上に実装しました.従来の看護の支援となるだけでなく,自動看護システムの中核機能の一つであもあります.

常時多点自動聴診システム

自動聴診システムの聴診センサ(聴診器)を患者体表に多数並べて聴診器アレイを形成し,各点でそれぞれ自動聴診を行うとともに,その結果を統合するシステムを開発しました.装着しやすい聴診器アレイのデザインも模索し,ウェアラブルデバイスとしての実装を追求しています.

気管内吸引要否判別・喀痰貯留位置推定

常時多点自動聴診システムから得られるデータに基づいて,気管内のどのあたりに痰がありそうか推定する手法を開発しました.また,その検証のため,体表における呼吸音の分布や正常/異常を再現できる患者模型も開発しました.これらのシステムにより,異常肺音を設定した箇所付近では異常と判別され,正常肺音に戻すと正常と判別されることが確認されました.

その他

全身動作と視線の計測

熟練看護師の模範手技を記録するため,あるいは看護学生~看護師の手技の特徴やその差異を見出し技量評価に活用するため,手指を含む全身の動作と視線の計測を行っています.

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